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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)194号 判決 1957年4月19日

原告 三輪牧生

被告 旭建設工業株式会社

主文

被告は原告に対し金十五万四百八十円並右に対する昭和三十一年一月二十一日以降完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。

原告其余の請求は之を棄却する

訴訟費用は三分し其一を原告其余を被告の負担とする

此判決は原告勝訴の分に限り原告に於て金三万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事  実<省略>

理由

被告会社が原告主張の如き営業を目的とする株式会社で訴外岡村武夫が被告会社の自動車運転手として雇はれていたこと、原告が原告主張の日時其主張の場所に於て岡村の運転する被告会社所有の貨物自動車に触れ負傷したことは当事者間に争がない。証人岡村武夫加藤文弘早船東木子の証言を綜合すれば当時岡村運転手は被告会社の貨物自動車を運転して中野区鷺宮五丁目方面の学校建築の作業現場に赴く途中事故現場の同所五百九十一番地文房具商早船東木子方の店頭内の道路に差しかかつたところ同所で近所に近く住む原告外一名の幼児が遊んで居り同道路の幅員は三間位であり右の状況はすくなくとも三十米手前から見通し得る状況にあつた右の如き場合自動車運転手としては常に前方を注視して災害の発生を未然に防止すべき義務あるに拘らず岡村は右注意を怠り漫然その運転を続けた為原告が右自動車の直前に現れた時慌ててブレーキを掛けたが間に合はず其前車輪を原告の右足に乗り上げて前記の如き傷害を原告に与へたことを認めることができ右認定を覆するに足る証拠はない右の次第であるから右被用者の選任監督に相当の注意を怠らざりし証明なき本件に於ては使用者たる被告会社は其被用者である岡村が其事業の執行に付加へた損害を賠償すべき責任があること当然と云はなければならない。被告は右事故発生には原告の監督者である親権者並原告にも過失がある旨主張するけれども被害者に過失があるといい得る為には被害者に責任能力があることを必要とし本件の如く被害者が責任能力なき幼児である場合には過失相殺を加害者に於て主張することはできない。又右の場合責任能力なき者の監督義務者に過失ある場合と雖も右は被害者自身の過失ではないから又被害者が損害賠償を請求する場合には過失相殺を主張することはできないから被告の右主張は採用することはできない。仍て更に其損害賠償の額に付按ずるに成立に争のない甲二、三号証に原告親権者両名の尋問の結果原告親権者哲夫の尋問の結果により成立を認め得べき甲第三号証を綜合すれば、原告は右事故の為原告主張の如き傷害を受けた直後聖母病院に入院し昭和三十一年三月十一日迄治療を受け其後も通院を続け治療費合計金九万五千四百八十円を支払つた外入院及退院の諸雑費としてすくなくとも金三万円を支出したことが認められるから被告は之が賠償の責任がある。又原告は本件負傷により精神上の苦痛を受けたること勿論であり右に対する慰藉料は原告の年令負傷の部位程度原被告双方の社会的地位其他諸般の事情を綜合して金五万円を相当と認める。以上の次第であるから結局被告は原告に対し以上合計金十七万五千四百八十円より原告が被告より治療費として其支払を受けた金二万五千円を控除した金十五万四百八十円並右に対する訴状送達の翌日たる昭和三十一年一月二十一日より完済に至る迄年五分の割合による損害金を支払う義務あるも其余の請求は失当として之を棄却すべきものとし訴訟費用の負担に付民事訴訟法第九十二条仮執行の宣言に付同法第百九十六条を適用し主文の如く判決する。

(裁判官 池野仁二)

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